Section 16

現在の主な論点

令和8年度基準は、特許期間中の薬価を守り、特許が切れたら速く後発品の水準へ下げる形に組み直されました。 意見が割れているのは、その入口・途中・出口と、すべての品目にかかる改定の頻度・調整幅・下支えと、保険で見る範囲の12点です。 出口を速くできるのは後発品が供給を受け止めるから、入口の価格を上げられるのは出口で回収できるからで、論点どうしは互いの前提になっています。

12の論点は、薬価の道筋のどこにあるか

実線は1つの新薬の薬価の動き、点線は後発品の価格(令和8年度基準の模式図)。番号を押すと本文へ移動します。

  1. 入口収載時
    1. 01ドラッグ・ロス
    2. 02最恵国待遇(MFN)
    3. 03開示度
  2. 途中特許期間中
    1. 04超高額医薬品
    2. 05費用対効果評価の範囲
  3. 出口特許切れ後
    1. 06長期収載品
    2. 07後発品の安定供給
    3. 08業界再編
  4. 全体すべての品目
    1. 09毎年改定
    2. 10調整幅
    3. 11物価高騰と下支え
    4. 12保険で見る範囲

ドラッグ・ロス

欧米で使える薬が、日本では開発すら始まらない。原因は薬価か、治験・規制・市場の大きさか。

令和8年度
PMPと迅速導入加算で、日本で早く開発する企業を評価する。
残ること
収載時の価格。骨太の方針2026は「初収載時における適切な評価」と「特許期間中の薬価の在り方」の検討を求め、骨子も革新的新薬の評価方法を次期改革で検討するとした。

薬価だけの効果は取り出して測れず、「上げれば減る」も「関係ない」も実証は弱いままです。 PMPの対象企業は過去5年の国内試験などの実績で決まるため、日本で実績のない海外の新興企業には届きにくい形です。 最初の1品目だけは、収載時点で対象として扱う歯止めがあります。

最恵国待遇(MFN)

米国が自国の薬価を他国並みに下げる政策は、日本の薬価と上市の判断に跳ね返るのか。

令和8年度
MFNに向けた規定は置かず、改革の骨子で「機動的な対応ができるよう、革新的新薬の薬価の在り方については引き続き検討する」とした。
残ること
骨太の方針2026が名指しし、「必要な医薬品等が確実に上市される環境整備」を掲げた。製薬協・PhRMA・EFPIAは2026年8月、骨子の方針を踏まえた制度対応を求めた。

米国の価格政策が日本に届く2つの経路

骨子が挙げる経路
  1. 日本の薬価が米国に波及
  2. 企業が日本への導入に慎重に
  3. ドラッグ・ロス
外国平均価格の経路
  1. 米国の公的価格が下がる
  2. 外国平均価格が下がる
  3. 引下げ調整にかかりやすい

下の経路は、外国平均価格調整(米・英・独・仏を参照し、米国はメディケアかメディケイドの価格表を使う。算定値が外国平均価格の1.25倍を超えると引き下げる)から導いた本サイトの読みです。

開示度

原価を開示できない新薬に、加算を認めないままでよいか。

令和8年度
見直さず、次期改革で引き続き検討する(改革の骨子)。原価計算方式で開示度が50%未満なら、補正加算に係数0が掛かり加算は乗らない(令和4年度から)。
残ること
開示が難しい品目の扱い。骨子も「医薬品のサプライチェーンの複雑化により原価の詳細な開示が難しくなっている」と認めている。開示できないのか、しないのかを制度は区別できない。

原価計算方式の約半数は、開示度が50%未満だった

平成30年4月〜令和3年5月に原価計算方式で算定された47成分(令和4年度改革の骨子による)

  • 開示度50%未満 24成分
  • 50%以上 23成分

令和4年度の骨子は「その多くは移転価格として示されている」とし、50%未満の係数を0.2から0に下げました。

原価計算方式を使うのは、比較できる類似薬がない新規性の高い品目です。 革新的なのに加算が乗らない組み合わせが起こり、ドラッグ・ロスへの対応と同じ品目の上でぶつかります。

超高額医薬品

年1,000億円を超えて売れる薬を、売れた額で下げるのか、効き目の価値で決めるのか。

令和8年度
持続可能性特例価格調整(SPA-SSS)を新設。年間販売額1,000億円超と1,500億円超の2段で、引下げの上限は25%と50%(条件によって改定前の3分の1まで)。他社品の売れ行きで一緒に下がる「共連れ」は廃止した。
残ること
多く使われたことを理由に下げる設計が、開発の向きを歪めないか。骨子は、SPA-SSSの在り方と、再生医療等製品への市場拡大再算定の当て方を引き続き検討するとした。

上限と、実際の引下げ幅

令和8年度の随時改定でSPA-SSSが適用された2品目。点線の枠が区分の上限、塗りが実際の引下げ幅

マンジャロ1,000億円超の区分 ▲25.0%上限25%
デュピクセント1,500億円超の区分 ▲3.7%上限50%
0%25%50%

下げ幅は基準をどれだけ超えたかで連続的に決まり、上限はそれを頭打ちにするだけです。

費用対効果評価の範囲

費用対効果評価を、価格の一部の微調整にとどめるか、価格全体に及ぼすか。

令和8年度
評価が「費用増加」となった集団の調整方法の見直しは施行を保留し、2026年9月の検証報告を受けて方法を定めたうえで、改めて価格調整を行う。
残ること
調整する範囲と対象品目の拡大。骨太の方針2026は「一定の結論を出す」とし、大臣折衝は時期を令和9年度改定の中とした。介護費用を価格調整に使うかも、引き続き議論とされている。

価格調整で、価格全体の何%が動いたか

2025年9月1日までに評価が終わり、価格調整が行われた38品目と、2026年8月のアウィクリ

38品目の中央値 ▲4.29%
中ほどの半数25〜75パーセンタイル ▲2.58〜8.07%
アウィクリ ▲0.3〜0.4%
0%5%10%

係数を掛けるのは有用性系加算部分など価格の一部だけで、係数は0.1が下限です。 アウィクリは最も厳しい0.1が患者の11.7%分にしか掛からず、範囲を広げない限り動く額は増えません。

長期収載品

特許が切れた先発品に、どれだけ収益を残すか。残さない方向は一致していて、割れているのは速さ。

令和8年度
G1に一本化し、最初の後発品の収載から5年で、先発品の薬価を後発品価格の何倍までと決めて2年ごとに下げる(下の図)。薬価の外では、選定療養の患者負担が価格差の1/2になった(2026年6月)。
残ること
引下げ率50%の上限と円滑実施係数は、令和8年度改定だけの措置。これが外れたあとも供給が続くか。先発品が撤退した分は、後発品企業の承継か増産で埋める。

先発品の薬価は、後発品価格の何倍まで下がるか

最初の後発品の収載からの年数(G1に該当してからの改定ごと)

5年後2.5倍
7年後2倍
9年後1.5倍
11年後1倍

後発品の安定供給

少量多品目の構造を、品目を絞って解くのか、価格で支えて解くのか。

令和8年度
企業評価でA区分の企業の品目は、条件を満たせば価格帯の集約から外す。注射薬とバイオシミラーは、最高価格の30%を下回るものを除き、集約の対象から外した。
残ること
効くまでの時間。品目数はすぐには減らない。A区分は上位2割の相対評価で、業界全体が良くなっても数は増えない。

企業評価は企業を見て供給を果たす会社に報い、下支えは品目を見て安すぎて作れない状態を防ぎます。 単位が違うので、支えられた品目を評価の低い企業が作っていることが起こります。

業界再編

価格を決める仕組みで、産業の構造まで動かせるか。

令和8年度
企業評価(別表11)に、シェア3%以下の品目の抱え込みへの減点、統合で減った品目を計算から外す扱い、他社品目の引受けへの加点を入れた。
残ること
統合につながるか、供給の空白を生むか。骨太の方針2026は「産業構造改革の推進による後発医薬品等の安定供給」を掲げた。

制度が動かせるのは誘因まで

薬価制度
  1. 減点・除外・加点
  2. 品目を減らしても不利にならない
制度の外
  1. 企業の資本政策
  2. 統合・撤退
  3. 品目が減る

毎年改定

実勢価に合わせて毎年下げ続ける設計でよいか。財政の確実さと、企業の見通しの立てやすさがぶつかる。

令和8年度
毎年の改定は続ける。代わりにPMPで、要件を満たす特許期間中の品目を改定前の薬価に据え置く。
残ること
令和9年度(中間年)改定の対象範囲と、適用するルール。骨子は、国民負担の軽減と創薬イノベーション、安定供給の要請に「バランス良く対応する」考え方で検討するとした。

令和9年度改定の範囲をめぐる立ち位置

← 広く下げる改定しない →
  1. 財務省「対象品目や算定ルールを限定することなく」完全実施
  2. これまでの中間年改定乖離率の大きな品目に絞った
  3. 卸連「中間年の薬価改定を廃止していただきたい」

令和8年度予算では、制度改革による抑制(▲1,500億円程度)のうち▲1,100億円を薬価改定が占めました。毎年確実に一定額を出せる手段は、ほかにありません。 PMPの据置きも、品目の乖離率が全品目の平均を超えると外れるため、流通での値引き次第で崩れます。

調整幅

実勢価に上乗せする2%は足りないのか、それとも一律であることが問題なのか。

令和8年度
変えなかった。平成12年度に2%と決めてから一度も変わっていない。骨子は「物価の高騰等の状況も踏まえながら」次期改革で検討するとし、たたき台の「次々期」から前倒しした。
残ること
水準と形。2025年11月の薬価専門部会で、診療側の委員は「現在の2%では不足しているとも思われる」とし、支払側の委員は「一律2%で固定されていることには疑問」として、カテゴリーや投与経路、剤形ごとに変える余地を挙げた。

薬価に上乗せする幅は、15%から2%まで縮んだ

改定年度ごとの幅(平成10年度まではR幅、平成12年度からは調整幅)。中医協 薬価専門部会(2025年11月19日)の資料による

平成4年度15%
平成6年度13%
平成8年度11%
平成9年度10%
平成10年度5%
平成12年度〜令和8年度まで同じ2%

平成9・10年度は、長期収載品だけ幅が小さかった(8%・2%)。

2%は実勢価改定の式の一部で、乖離率が2%未満の品目は薬価が下がりません。 平均乖離率は約4.8%まで縮んでおり(令和7年調査)、平均的な品目では乖離の4割ほどを調整幅が埋めている計算です。

物価高騰と下支え

物価と製造原価が上がるなかで、実勢価に合わせて下げる仕組みのままでよいか。

令和8年度
最低薬価を引き上げ、不採算品再算定は該当する類似薬のシェアの合計が5割以上なら適用できるようにした。
残ること
下支えが物価に追いつくか。日薬連とGE薬協は2026年8月、令和9年度改定での薬価の引上げを求め、卸連は流通コストを賄える改定を求めた。

物価は上がり、医薬品の価格は下がった

企業物価指数(2020年=100)の2025年の値。日薬連の提出資料(日本銀行のデータ)による

総平均 126.7
医薬品 84.3
70100130

不採算品目のうち、再算定が適用されたのは8.4%

GE薬協の会員32社の不採算品目1,882品目(令和8年度)。GE薬協の提出資料による

  • 適用された 158品目
  • 適用されなかった 1,266品目
  • 申請を断念 458品目

適用された158品目のうち96品目は、コスト高騰を吸収しきれず不採算のままとされています。

薬価を上げる手立ては、最低薬価や不採算品再算定などの下支えに限られます。

保険で見る範囲

薬の価格を下げるのではなく、保険で見る範囲を狭めて薬剤費を抑えてよいか。

令和8年度
法改正で「一部保険外療養」を創設した。OTC類似薬77成分(1,042品目)の薬剤費の4分の1を「特別の料金」として患者に求める(令和9年3月施行を想定)。配慮が必要な人からは求めない。
残ること
対象にする薬と例外の線引き(中医協と政府の動きで追っています)。財務省は、長期収載品の選定療養の拡大などと合わせた4本柱で、保険料負担▲1,000億円程度を見込む。

OTC類似薬の薬剤料を、誰が払うか(3割負担の場合)

いま

令和9年3月から(想定)

  • 保険
  • 窓口負担(3割)
  • 特別の料金(薬剤費の4分の1)

残りの4分の3にはふだんどおり保険が効くので、3割負担の人が払うのは薬剤料の30%から47.5%になる計算です(財務省資料の図による)。

※ このページの要約と読み解きは、公表資料と通知の規定をもとにした本サイトの整理で、政府・中医協の見解ではありません。 日付を追った動きは中医協と政府の動きにあります。
出典:薬価算定の基準について(令和8年2月13日 保発0213第3号)、令和8年度・令和4年度薬価制度改革の骨子、骨太の方針2026、大臣折衝事項(令和7年12月24日)、 財政制度等審議会 財務省資料(2026年4月28日)、中医協 総会(2025年12月3日、2026年5月13日・8月5日・8月26日)・費用対効果評価専門部会(2026年1月16日)・薬価専門部会(2025年11月19日、2026年8月26日の業界団体の提出資料)の資料と議事録

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