Section 09

改定時加算

収載後の努力や実績を評価して薬価を引き上げる規定が、 令和8年度薬価算定基準の第3章第10節「既収載品の薬価改定時の加算」に置かれています。 毎年の引下げ圧力のなかで企業が追加の開発に投資する数少ない誘因で、 それゆえ何を評価対象にするかが繰り返し論点になってきました。

条文は対象品目(7類型)薬価の改定方式の2項だけで、 加算率は別表2にあります(加算率の決まり方)。

加算の対象となる7類型

①〜⑤は追加された効能・用法用量を評価し、⑥⑦は効能追加の有無を問わず、 市販後の実績を評価します。 ⑥は収載時の主たる効能に係る対象疾病に限られますが、⑦に効能の限定はなく、 追加された効能で真の臨床的有用性が検証された場合も対象になりえます。 7類型に共通する柱書の除外として、市場拡大再算定に該当する品目は対象外です。 売れすぎで引き下げる規定と開発努力で引き上げる規定が、 同じ改定でぶつからないための交通整理です。 もっとも、開発の実績が評価されないわけではありません。 ①〜⑤や⑥の要件、市販後に真の臨床的有用性が検証されたことなどに当たれば、 再算定の中で補正加算(有用性加算(Ⅱ)の計算方法を準用。率 A は 5 ≦ A ≦ 10)が付き、 引下げが緩和されます(別表6の4)。

既収載品の薬価改定時の加算(第3章第10節)
#類型内容
小児小児に係る効能・効果または用法・用量が追加された品目
希少疾病希少疾病に係る効能・効果等が追加された品目(希少疾病用医薬品またはそれに相当すると認められるもの)
先駆的先駆的医薬品に係る効能・効果等が追加された品目
特定用途特定用途医薬品に係る効能・効果等が追加された品目
迅速導入迅速導入加算の要件を満たして効能・効果等が追加された品目(③に該当するものを除く)
市販後に標準的治療法に市販後に診療ガイドラインの記載から、国内の標準的治療法になったと薬価算定組織が認めた品目(収載時の主たる効能について⑥⑦の加算を受けたことのあるものを除く)
市販後に真の臨床的有用性を検証市販後の調査成績により真の臨床的有用性が直接的に検証され、国際的に信頼できる学術雑誌への論文掲載等を通じて公表された品目

※ ⑥は、表中の除外により主たる効能につき一度きりです(⑦に同様の除外はありません)。

企業の負担が相当程度低いものは対象外

①〜⑤に共通して、効能追加の承認申請にあたり医学薬学上公知であるなどの理由で臨床試験を新たに実施せず、 文献等の添付で申請できた場合など、製造販売業者の負担が相当程度低いと認められるものは除かれます。 ⑦も同様に、根拠の調査成績が大学等の研究機関により得られた場合などは除かれます。

改定計算のどこに乗るか

既収載品の薬価改定では、改定前薬価に第3章の第1節から第12節までを順に適用します。 改定時加算は第10節です。 条文が「本規定の適用前の価格に……加えた額に改定する」と言うときの「本規定の適用前の価格」は、 第9節まで適用し終えた額です。

改定時加算が乗る位置(第3章)
規定改定時加算との関係
第1節市場実勢価格加重平均値調整幅方式(実勢価改定)まずここで薬価が下がる
第5節再算定市場拡大再算定に該当すると対象外
第9節革新的新薬薬価維持制度(PMP)据置きと加算は両立する
第10節既収載品の薬価改定時の加算ここまでの結果に上乗せされる
第11節既収載品の外国平均価格調整加算後の価格に対して行われる
第12節費用対効果評価加算を受けた品目も、その後に引下げを受けうる

※ 節の順序の全体像は革新的新薬薬価維持制度へ。

加算率の決まり方

加算率は有用性加算(Ⅱ)の計算方法を準用します。 「準用」なので借りるのは率そのものではなく率の作り方です。 率 A の範囲は有用性加算(Ⅱ)と同じ 5 ≦ A ≦ 30(%)ですが、 A がそのまま乗るわけではなく、年間販売額に応じて圧縮されます。

年間販売額に応じた圧縮(別表2(5))

別表2(5)改定時加算の補正加算率 イ)内用薬・外用薬 α = A100 × 1.5log(X ÷ 50) ÷ log(25 ÷ 50) ロ)注射薬:イの 50 を 20 に、25 を 10 に置き換える 2.5/100 ≦ α ≦ 15/100、かつ 0.5A/100 ≦ α ≦ 1.5A/100
A = 当該既収載品に適用される率(%)。
X = 当該既収載品の同一組成既収載品群(当該薬価の改定の特例の対象となるものに限る)の年間販売額の合計額(億円単位、薬価改定前の薬価を基に計算)。

基準額(内用薬・外用薬50億円、注射薬20億円)ちょうどなら係数は1で α = A/100、 販売額が半分になるごとに1.5倍、倍になるごとに1÷1.5倍です。 ただし α は15%が上限なので、計算した値がこれを超えるときは15%になります。 0.5A/1001.5A/100 の枠に張り付くのは、内用薬・外用薬なら 25億円以下(上限)と約164億円以上(下限)、 注射薬なら 10億円以下と約65億円以上です。

販売額が大きいほど、加算率は小さくなる

内用薬・外用薬の場合。横は同一組成既収載品群の年間販売額(対数目盛)、縦は加算率α。線は率Aごとに、2.5%〜15%と0.5A〜1.5Aの枠を当てた後の値です。

0% 5% 10% 15% 販売額で率が動く範囲 基準額 10億 25億 50億 100億 約164億 300億 同一組成既収載品群の年間販売額(円)→ ↑ 加算率α A=5% A=10% A=20% A=30% 数値例 13.3% 0% 5% 10% 15% 販売額で率が動く範囲 基準額 25億 50億 100億 約164億 年間販売額(円)→ ↑ 加算率α A=5% A=10% A=20% A=30% 数値例 13.3%
数値を表で見る
年間販売額と加算率α(内用薬・外用薬の場合)
A25億円以下50億円100億円約164億円以上
5%7.5%5.0%3.3%2.5%
10%15.0%10.0%6.7%5.0%
20%15.0%15.0%13.3%10.0%
30%15.0%15.0%15.0%15.0%

○は下の数値例。注射薬は基準額が20億円なので、同じ形の線が販売額の小さい側へずれます。

※ A = 30% なら、下限側の枠(0.5 × 30 = 15%)が絶対上限と重なり、販売額にかかわらず α は 15% です。
※ 絶対下限の2.5%は A の下限5%×0.5と同じ値で、単独では効きません。
※ 詳しくは対数式の読み方補正加算(別表2)へ。

複数に該当したときの合成

補正加算率の合成(第10節(2)イ〜ハ)
場面扱い
複数の効能・効果または用法・用量が追加された追加された効能・用法用量ごとに算定した加算率を合計する
一つの効能・用法用量が①〜⑤の複数に該当するそのうち最も大きい加算率を用いる
収載時の主たる効能について⑥と⑦の双方に該当するそのうち最も大きい加算率を用いる

最後に120%の天井がかかる

加算後の価格の上限 加算後の価格 ≦ 当該既収載品の薬価改定前の薬価 × 120/100 加算率を乗じるのは「本規定の適用前の価格」、天井を測るのは改定前薬価です。 実勢価改定で下がっているぶん、天井までの余地は広めに残ります。 第11節(外国平均価格調整)にも同じ形の上限があります。

数値例で追う

内用薬で、改定前薬価が100円、本規定の適用前の価格が90円、 同一組成既収載品群の年間販売額が100億円の品目を考えます。 この改定までに小児に係る効能が追加され、薬価算定組織で A = 20% と評価されました。

数値例を、第3章の順に追う

横は節の順、線は各節を通ったあとの薬価です。

80 90 100 110 120 改定前薬価 100円 天井 120円(改定前薬価 × 120%) 改定前 第1節 実勢価改定 第2〜4節 維持期間後 ・G1など 第5節 再算定 第6〜8節 価格帯 ・低薬価品など 第9節 PMP 第10節 改定時加算 第11節 外国平均 価格調整 第12節 費用対効果 評価 −10.0円 +12.0円 90円 × 13.3% 本規定の適用前の価格 90円 改定後 102.0円 80 90 100 110 120 円 → 改定前 天井 120 改定前 第1節 実勢価改定 第2〜4節 維持期間後・G1など 第5節 再算定 第6〜8節 価格帯・低薬価品など 第9節 PMP 第10節 改定時加算 第11節 外国平均価格調整 第12節 費用対効果評価 改定後 −10.0円 +12.0円 適用前の価格 90円 102.0円

この例では、第1節と第10節以外の節で薬価は動かないものとします。

改定時加算の計算

  1. STEP 1販売額による係数 1.5log(100÷50) ÷ log(25÷50) = 1.5−10.667
  2. STEP 2加算率 α = 20/100 × 0.66713.3%
  3. STEP 3枠の確認 0.5A/100 = 10% ≦ 13.3% ≦ 1.5A/100 = 30%、2.5%〜15%内そのまま
  4. STEP 4加算後の価格 90円 + 90円 × 0.133102.0円
  5. STEP 5天井の確認 100円 × 120/100 = 120円102.0 ≦ 120
改定後薬価102.0円

※ 同じ品目の年間販売額が4分の1の25億円なら、係数は上限の1.5に張り付いて α = 30% ですが、絶対上限の15%で頭打ちになり、 加算後の価格は 90 × 1.15 = 103.5円、加算額は12.0円から13.5円に変わるだけです。
※ 実際の算定で入る円位の端数処理は省いています。

なぜ改定時加算が論点になるのか

ドラッグ・ロスへの対抗手段

小児用・希少疾病用の効能追加は、対象患者が少なく開発費を回収しにくいため後回しにされがちです。 ①②は、その開発を、収載後に価格で報いることで促す設計です。 PMPの品目要件にも小児加算・希少疾病が入っており、誘因は二重です。

「収載時に評価しきれない価値」の後払い

⑥⑦は、収載時点では分からなかった価値(ガイドラインでの位置づけや、真のエンドポイントでの有用性)が 後から明らかになったとき、そのときの薬価に反映します。 年代は対照的で、⑦は平成22年度から続く古株、⑥は令和8年度基準で新設されました。 ⑥の適用は令和6年4月以降に薬価収載された品目に限られます(第4章1(8))。

誘因としての強さには天井がある

加算率は効能・用法用量1件ごとに15%が上限で(複数追加されたときは合計するので15%を超えることがあります)、 加算後の価格は改定前薬価の120%で頭打ちです。 しかも年間販売額が大きい品目ほど率が圧縮されるため、 効能追加1件あたりの見返りは相対的に小さくなります。 後払いの誘因がどこまで開発判断を動かせるのかは、繰り返し検証の対象です。

令和8年度改革での動き

改定時加算は、入口で評価しきれなかった分を後から補う仕組みです。 議論は入口の評価そのものの見直しにも向かい、経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)は「初収載時における適切な評価」の検討を求めています(→ ドラッグ・ロスをめぐる論点)。 最新の状況は中医協と政府の動きで扱っています。

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