Section 15
誰が、どう決めるのか
薬価の話は「中医協で決まる」と片づけられがちですが、実際に決まっているものは 総枠・ルール・個別品目の値段の三つで、決める場所も時期も違います。
決まっているものは三つある
| 層 | 決まる | 決める | 時期 |
|---|---|---|---|
| 総枠 | 薬価改定率 薬価全体をどれだけ下げるか |
予算編成過程の大臣折衝 厚生労働大臣・財務大臣 |
12月下旬 年1回 |
| ルール | 薬価算定基準 個別の薬価を出すための算式と要件 |
中医協 薬価専門部会で議論し、総会が了承 |
夏〜翌2月 改定のたび |
| 個別 | 品目ごとの薬価 1品目いくらか |
新薬は薬価算定組織が算定し、中医協総会が了承。 後発品などの収載と改定時の既収載品は算定基準の式で算定 |
収載のつど/改定時 新薬は年7回 |
上から順に外枠が決まり内側が埋まっていくように見えますが、時間の流れは逆向きの部分もあります。 ルールの議論は夏から始まり、総枠が決まる12月には論点がほぼ出そろっているので、 総枠と骨子はほぼ同時に固まると考えたほうが実態に近いです。
層をまたいで決まるもの
ルールの一部は予算折衝で決着します。 令和8年度では、共連れの廃止と最低薬価の物価対応が、 改定率と同じ文書に「薬価制度関連事項」として並んで示されました。 長期収載品の激変緩和措置(引下げ率50%上限・円滑実施係数)のような技術的なルールにも、 財政と産業への影響のバランスをめぐる調整の結果が織り込まれています。 → 令和8年度の決着内容
登場する組織
決める側 ルール・個別の値段・総枠のいずれかを実際に動かす
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中医協中央社会保険医療協議会
ルールと収載を了承する
薬価算定基準の改正には中医協の了解が必要で、通知にも「中央社会保険医療協議会了解」と併記されます(構成は下の「中医協という場」)。
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薬価算定組織中医協の下に置かれる専門組織
個別品目の値段を算定する
原価の開示度の妥当性確認や、市販後の標準的治療法化の認定も担います。
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厚生労働省保険局/大臣官房 医薬産業振興・医療情報審議官
立案し、調べ、通知と告示を出す
制度の企画立案、薬価調査の実施、薬価算定基準の通知発出、薬価基準の告示。中医協の事務局(保険局医療課)も務めます。
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財務省主計局
改定率という総枠を締める
社会保障費の抑制を求める立場から、薬価の毎年改定、長期収載品の引下げ、後発品の使用促進を繰り返し提言してきました。
決めないが効かせる側 議決権も算定権限も持たないが、方向は大きく左右する
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政府の会議体経済財政諮問会議・財政制度等審議会・規制改革推進会議
中医協の外側から方針を降ろす
骨太の方針は閣議決定されるため、そこに書かれた事項は中医協でも「実施すること自体は決定済み」の前提で議論が始まります。財政審の建議は、財政側の要求を制度案の形で示します。
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業界団体日薬連・製薬協・GE薬協・PhRMA・EFPIA・卸連
意見を述べる(票は持たない)
薬価専門部会で意見陳述の機会があります。
※ 上の一覧のほか、費用対効果評価の分析は企業が行い、その検証(公的分析)は国立保健医療科学院の C2H(保健医療経済評価研究センター)と、同院が指定する公的分析班が担います。 評価の枠組みは中医協の費用対効果評価専門部会が議論します。→ 費用対効果評価
中医協という場
中医協は、厚生労働大臣の諮問を受けて答申する審議会です。委員は20名で、 保険者・被保険者・事業主を代表する支払側7名、医師・歯科医師・薬剤師を代表する診療側7名、 公益を代表する6名という構成が法律で定められています(社会保険医療協議会法第3条)。 支払う側と受け取る側を同数にし、どちらにも属さない公益委員が最後の調整に立ちます。
下部組織はほかに保険医療材料専門部会、診療報酬基本問題小委員会などがあります。 薬価算定組織は「部会」ではありません。
この20名とは別に、厚生労働大臣は専門の事項を審議するため10名以内の専門委員を置けます(同条第3項)。 薬価の分野では製薬業界の代表が就くのが通例で、審議の場で意見を述べますが、議決には加わりません(しばしば混同される点です)。
制度改革の実質的な議論の場は薬価専門部会です。ここに厚生労働省が論点と改正案を出し、 支払側・診療側・専門委員が意見を述べ、公益委員が論点を整理します。 部会でまとまった内容は薬価制度改革の骨子となり、総会の了承を経て通知の改正につながります。 部会も総会も公開で、議事次第と配布資料は同日に厚生労働省のサイトに掲載されます。 一方、薬価算定組織は非公開です。企業の原価データなど営業秘密を扱うためで、 算定の結果は中医協総会ではじめて公開されます。
総枠:改定率はどこで決まるのか
改定率は中医協では決まらず、年末の予算編成過程で決着します。
大臣折衝:厚生労働大臣・財務大臣
厚生労働大臣
医療提供体制と医薬品の安定供給、イノベーションの評価を確保する立場で、過度な引下げへの歯止めを求めます。
財務大臣
国家財政の持続可能性を担う立場で、薬価引下げによる財源確保を求めます。
内閣官房長官
改定率を決める大臣折衝には加わりません。名前が出るのは中間年改定で、改定の対象範囲などを内閣官房長官・財務大臣・厚生労働大臣の三大臣合意(令和7年度は令和6年12月20日「令和7年度薬価改定について」)で先に決め、大臣折衝事項がそれに基づいて示されます。
改定率の示され方
示され方にも決まった形があり、診療報酬(本体)・薬価・材料価格の改定率が一つの文書に並んで出ます。 率は医療費ベースの%で、国費ベースの金額が添えられます。
令和8年度の例。2025年12月24日の予算大臣折衝による。→ 決着内容の全文と出典
薬価と本体が同じ文書に並ぶのは、薬価を下げて浮いた財源を本体の引上げに回すかどうかが予算編成の焦点になるからです。 ただし、そう配分することは制度で定まっておらず、毎年争われます。
※ 改定率は財政側が一方的に割り当てた数字ではありません。本改定では、薬価調査の乖離率に算定基準をあてはめれば、 引下げ額の見込みはおおむね機械的に出ます。折衝で動くのは主に、その見込みにどの特例を上乗せするか(たとえば不採算品再算定を臨時に広く適用するか、最低薬価を引き上げるか)です。 中間年改定では、改定の対象範囲(令和7年度は平均乖離率5.2%を基準に、品目の区分ごとにその0.5〜1.0倍を超えるもの)や適用するルールそのものが大臣間の合意で決まり、引下げ額を大きく左右します。 → 乖離率と改定の計算
個別品目:算定案から告示まで
ルールが決まっていても、ある品目にどうあてはめるかは自動的には決まりません。 それを判断するのが薬価算定組織で、 手続きは「医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて」(令和8年2月13日 産情発0213第1号・保発0213第4号)に定められています。
- 1
収載希望書の提出
企業(新薬収載希望者)が薬価基準収載希望書を提出します。期限は、承認後1週間を経過した日と、承認前の直近の医薬品部会の終了後3週間を経過した日のいずれか早い日。原価計算方式を希望する場合は、希望する係数と算定に必要な資料も添えます。
- 2
企業からの意見聴取
希望書の提出があった場合、あらかじめ企業の意見を聴く機会が設けられます。日時と場所は原則として1週間前までに通知されます。
- 3
- 4
算定案の通知
中医協総会での審議の前に、算定案が理由を付して企業に通知されます。
- 5
不服意見(1回に限る)
算定案に不服がある企業は、1回に限り「薬価算定案等不服意見書」を提出できます。算定基準のどこに照らして不適当なのかを、根拠資料とともに説明しなければなりません。企業は再び算定組織に出席して意見を述べ、算定組織はそれを踏まえて算定案を決め直します。その案は再度企業に通知され、さらに不服がないことが確認されます。
- 6
中医協総会での了承
不服がないことが確認された算定案を総会で審議し、了承を求めます。了承されれば、品名・規格単位・決定された薬価・収載予定日が企業に通知されます。総会が収載しないとしたときも、企業は書面で不服意見を出せます。
- 7
告示・収載と供給開始
告示により薬価基準に収載されます。企業は、特にやむを得ない正当な理由がある場合を除き、収載日から3か月以内に供給を開始し、以後継続して供給する義務を負います。
※ 上は新医薬品の手続きです。報告品目・新キット製品と後発医薬品(収載時期は → 収載の単位とタイミング)は、 通常は算定組織にかからず、希望書の審査を経て、企業に通知したうえで収載されます。 報告品目・新キット製品には企業の意見を聴く機会が設けられ(日時と場所は原則として1週間前まで)、後発医薬品は必要に応じて意見を聴きます。 補正加算の妥当性について専門的な検討が必要な場合は、新医薬品に準じて算定組織にかかり、意見陳述と1回限りの不服意見の手続きもあります。
不服意見と収載時期
承認から収載までの標準的な事務処理期間は原則として60日以内、遅くとも90日以内ですが、 算定案に不服がある場合はこの限りでない、と明記されています。 不服意見を出すと、この60日・90日の目安は保証されなくなります。 ただ、再検討の場である第2回の薬価算定組織は収載の回ごとの標準的な手順に組み込まれているため、予定どおり収載されることもあります。 → 薬価の一生(収載前の3段階)
年間サイクル
1年のなかで、3つの層が動く時期
横は改定の前年4月から、改定の年の4月1日まで。色は最初の表の層と同じです。帯は期間、点はその日の出来事です。
時期はおおよそで、日付は令和8年度改定のものです。
| 時期 | 中医協の動き | 政府・行政の動き |
|---|---|---|
| 夏(6〜7月) | 薬価専門部会が次期改定の論点整理を開始(令和8年度は6月25日)/新薬の収載(年7回のうち) | 骨太の方針の閣議決定(6〜7月) |
| 夏〜秋 | 個別論点の議論/業界団体の意見陳述 | 各省の概算要求(8月末) |
| 秋 | 引き続き個別論点を議論 | 薬価調査の実施(9月取引分が基本)/PMP(革新的新薬薬価維持制度)の対象企業の確認事項は改定前年9月末時点までの数値を使用 |
| 11〜12月上旬 | 薬価調査の速報値が総会に報告される | 財政制度等審議会の建議/予算編成の大詰め |
| 12月下旬 | 薬価制度改革の骨子をとりまとめ(令和8年度は12月26日 中医協了解) | 大臣折衝で改定率と制度の方向性が決着/予算案の閣議決定 |
| 1〜2月 | 基準の改正案を了解 | 薬価算定基準の改正通知を発出(令和8年度は2月13日) |
| 3月 | — | 改定薬価の告示(令和8年度は3月5日) |
| 4月1日 | — | 新基準・新薬価の適用開始 |
※ 薬価改定は現在毎年行われます(本改定と中間年改定の違いは → 改定の頻度)。 令和9年度(中間年)改定の実施自体は、令和8年度の改定率と同じ大臣折衝で決着済みです。 → 毎年改定の是非