Section 10
革新的新薬薬価維持制度(PMP)
Patent-period price Maintenance Program for Innovative Drugs
令和8年度改革の中核で、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の後継です。 実勢価改定をそのまま当てると特許期間中の革新的新薬まで年々値下がりし、開発投資を回収しにくくなります。 そこでPMPは、要件を満たす品目に実勢価改定を適用せず、改定前の薬価に据え置きます。
従来の加算との違いと薬価維持期間の流れ
| 観点 | 従来(〜令和6年度基準) | 令和8年度基準 |
|---|---|---|
| 価格の守り方 | 実勢価改定を適用したうえで、加算を上乗せして戻す | 実勢価改定を適用せず、改定前薬価に据え置く下げた結果を差し替える |
| 企業要件 | 平成30年度から企業区分で加算係数に差を付けていた(→ 過去の分析)。令和6年度基準で段階付けを廃止し、除外方式(別表11)へ係数が掛かった令和5年度まで、下位区分の品目は加算で戻りきらず、改定のたびに目減りした(令和5年度は令和4年度の係数で加算したうえで、改定前薬価との差の95%を臨時・特例で上乗せ)。廃止後は対象/対象外の二択に | 除外方式を引き継ぐ令和6年度の別表11が別表10になった |
| 猶予分の返還 | 後発品の収載時等に、加算の累積額を控除 | 同じ考え方を維持。旧加算の累積額もそのまま引き継ぐ下の「従来の加算からの引継ぎ」 |
| 期間の呼び方 | 規定上の名前はなし | 薬価維持期間という概念に整理終了事由と、終了後の改定方式が独立の節に置かれた(第3章第2節) |
改定計算のどこに入るか
既収載品の薬価改定は、改定前薬価に第3章の第1節から第12節までを順に適用して算定します。 PMPはその第9節で、この位置が制度の性格をほぼ決めています。
PMPは第9節で、第8節までの結果によらず改定前の薬価に戻す
改定前薬価100円、実勢価改定で5%下がる品目の例(数字は説明用の仮設例)。横は第3章の節の順、線は各節を通ったあとの薬価で、第1節で下がった5円が累積額に積まれます。
| 節 | 規定 | PMP対象品 |
|---|---|---|
| 第1節 | 市場実勢価格加重平均値調整幅方式 | ここで薬価が下がる。後で差し替えられる額だが、累積額の計算にはこの額を使う |
| 第2節 | 薬価維持期間経過後における革新的新薬の薬価の改定 | 維持期間が終わる改定で、累積額をまとめて控除する |
| 第3節 | PMP対象品目等を比較薬にして算定された品目の取扱い | 波及先の品目に効く |
| 第4節 | 長期収載品の薬価の改定(G1) | 後発品が出るまでは無関係 |
| 第5節 | 再算定 | いずれかに該当すると、その改定ではPMPの対象外(第9節1ニ。下の対象品目の要件4) |
| 第6〜8節 | 再生医療等製品の特例/後発品等の価格帯/低薬価品の特例 | ここまで適用した額が「本規定の適用前の価格」 |
| 第9節 | 革新的新薬薬価維持制度 | 第8節までの算定結果によらず、改定前薬価に改定する |
| 第10節 | 既収載品の薬価改定時の加算 | 据置き後の価格に上乗せされる。据置きと加算は両立する |
| 第11節 | 既収載品の外国平均価格調整 | 据置き後の価格に対して行われる(引上げ・引下げの両方向) |
| 第12節 | 費用対効果評価 | PMPの後に来るため、据え置かれた品目も引下げを受けうる |
※ 第1節の算式は実勢価改定、別表5の形は計算方法で扱っています。
対象品目の要件
ある改定で品目にPMPが適用されるには、次の要件をすべて満たす必要があります。 1〜4は対象品目の要件(第3章第9節1)、5・6は改定方式のただし書(同節3)にあり、条文上は分かれていますが、ひと続きの判定で、いずれも改定のたびに見直されます。
- 新薬として薬価収載され、その品目に係る後発品が収載されていないこと(収載から15年を経過していないものに限る)
- 品目要件①〜⑩のいずれかに該当すること
- 補正加算の対象とならない配合剤に相当すると認められる品目については、収載から15年を経過した有効成分、または後発品が収載された有効成分を含まないこと
- 薬価改定の際の再算定のいずれにも該当しないこと
- その品目の乖離率が、全ての既収載品の平均乖離率を超えないこと
- PMPの適用前の価格(第8節まで適用した後の額)が、改定前薬価を上回らないこと
※ 3は、維持期間の終わった成分を組み合わせ直して維持期間を実質的に延ばすことを防ぐ規定です。
※ 5は「値引き販売の大きい品目まで薬価を守る必要はない」という考え方です。令和7年薬価調査の平均乖離率は4.8%で、判定の目安はこの水準です(→ 乖離率の推移)。
※ 6は、PMPが薬価を守る規定であって引き上げる規定ではないことの確認です。
品目要件①〜⑩
| # | 要件 |
|---|---|
| ① | 希少疾病用医薬品として指定された効能・効果について承認を受けている |
| ② | 未承認薬等検討会議の検討結果を踏まえ、厚労省が開発を公募した医薬品 |
| ③ | 収載時に画期性加算・有用性加算(Ⅰ)(Ⅱ)または営業利益率のプラス補正の対象となった医薬品(同じ加算の対象となった再生医療等製品を含む)。改定までにこれらの加算に相当する効能・効果が追加されたもの、改定時加算の⑥市販後の標準的治療法化・⑦真の臨床的有用性の検証に該当したものを含む 効能追加で当たる場合に除かれるもの:有用性加算(Ⅱ)の要件ニのみに相当する効能追加/既存の効能の対象患者の限定解除など、既存効能と類似性が高い効能追加。③全体から除かれるもの:組成・効能が同等で製造販売業者が同一の既収載品から概ね5年以上を経て収載され、時間を要した合理的な理由がないもの |
| ④ | 収載時に次をすべて満たす医薬品。(イ)加算適用品である新規作用機序医薬品を比較薬として算定された、またはその品目を比較薬として算定されたこと (ロ)(イ)に該当する既収載品目数(組成または投与形態が異なるものに限る)が1以下であること (ハ)(イ)の新規作用機序医薬品の収載から3年以内に収載されたこと 「加算適用品」は③の前段に当たる品目です。④は、先行品が加算を受けていることが前提です |
| ⑤ | 先駆的医薬品で、指定に係る効能・効果または用法・用量について承認を受けている |
| ⑥ | 特定用途医薬品で、指定に係る効能・効果または用法・用量について承認を受けている |
| ⑦ | 収載時に迅速導入加算の対象、または改定までに改定時加算⑤(迅速導入)の要件に該当した |
| ⑧ | 収載時に小児加算の要件を満たした、または改定までに改定時加算①(小児)の要件に該当した |
| ⑨ | 薬剤耐性菌の治療に用いる医薬品 |
| ⑩ | 先行収載品と組成・効能が同等で製造販売業者が同一の医薬品(先行収載品の収載から遅滞なく=概ね5年以内に収載されたものに限り、①〜⑨に該当するものを除く) |
※ ③と⑩は、どちらも「同じ企業が、同等の中身を後から出し直したもの」の扱いを定めています。③のただし書は5年以上遅れた同等品を落とし、⑩はその裏返しで、遅滞なく出された同等品を先行品と一体で扱います。
※ 改定時加算の類型番号は改定時加算にあります。
要件ごとの適用開始時期
品目要件は、追加されるたびに適用対象が区切られています(第4章1)。 令和8年度基準で初めて置かれた要件でも、過去にさかのぼって全品目に効くわけではありません。
| 規定 | 適用される品目 |
|---|---|
| ⑤先駆的医薬品・⑨薬剤耐性菌 | 令和2年度改定以降に収載または効能追加されたもの |
| ③のうち効能追加によるもの | 令和4年4月以降に承認された効能追加 |
| ③のただし書、④、⑦、⑧、⑩ | 令和6年4月以降に収載または該当する効能追加がなされたもの |
ただし、令和6年3月以前に、令和6年度基準の第3章第8節1(1)ロ⑤(新規作用機序医薬品を比較薬とし、該当する既収載品目数1以下・その収載から3年以内。現在の④に当たる)の要件で新薬創出・適応外薬解消等促進加算が適用された品目は、なお従前の例によるとされています。
令和8年3月以前に収載された品目の扱い(みなし規定)
令和8年度基準では、品目要件から「新規作用機序医薬品(令和6年度基準の別表10の基準に該当するもの)」と、それを比較薬として算定された品目が削られ、今後新たに収載される品目には適用されなくなりました。 そこで経過措置(第4章3(3))は、令和8年3月以前に新薬として収載され、後発品が収載されていない品目(収載から15年以内)のうち、 次のいずれかに当たるものを第9節1の対象品目とみなします(補正加算の対象とならない配合剤で、収載から15年を経過した有効成分または後発品が収載された有効成分を含むものを除く)。
- 令和6年度基準の別表10の基準に該当する新規作用機序医薬品、またはそれに相当する効能・効果が追加されたもの(既存効能と類似性が高い効能追加を除く)
- その新規作用機序医薬品を比較薬として算定された品目、またはさらにそれを比較薬として算定された品目で、収載時に該当既収載品目数が1以下、かつ先行品の収載から3年以内に収載されたもの
新規作用機序医薬品の要件で対象になっていた既収載品は、この規定で引き続き対象になります。 令和8年度改定でPMPの対象となった653品目のうち、この区分に当たるのは38品目で、大半は希少疾病用医薬品や加算適用品として①〜⑩に直接当たる品目です。
対象企業の要件
条文は「次に掲げる企業以外の企業とする」と書き、該当した企業を外す形です(第3章第9節2)。
対象から外れる企業
- イ 未承認薬等検討会議の検討結果を踏まえ厚労省から開発を要請された品目について、開発の拒否や合理的な理由のない遅延など、適切に対応しなかった企業
- ロ 別表10の確認事項について、過去5年間いずれの事項にも該当するものがない企業
ほかに対象品目を持たない企業
新薬の収載時点で、その新薬以外にPMPの品目要件を満たす品目を持たない企業は、 その時点では対象企業として扱われます(第3章第9節2ただし書)。
新規参入企業に限らず、対象品目をほかに持たない企業であれば当てはまります。 この取扱いは、その新薬の収載時点に限られます。
| # | 確認事項 | 数え方 |
|---|---|---|
| A-1 | 国内試験(日本を含む国際共同試験を含む/PhaseⅡ以降)の実施数 | 成分数単位。効能追加を含む(1成分で複数効能の試験でも「1」)。PMDAの対面助言で海外試験成績のみでの承認申請が可能と確認できる場合は、その海外試験も計上 |
| A-2 | 新薬収載実績 | 収載成分数 |
| A-3 | 革新性のある新薬の収載実績 | 収載成分数。PMP対象品目または新規作用機序医薬品の収載実績 |
| A-4 | 薬剤耐性菌の治療薬の収載実績 | 収載成分数。薬事審査で耐性菌への治療効果が明確になったものに限る |
| A-5 | 新型コロナウイルスの治療等に用いる医薬品の開発実績 | 承認取得数。ワクチンを含む |
| B-1 | 開発公募品(B-2分を除く) | 開発着手数。治験を実施していることを開発着手とみなす |
| B-2 | 開発公募品 | 承認取得数 |
| C-1 | 世界に先駆けた新薬の開発 | 品目数(=先駆的医薬品の指定数) |
| C-2 | 特定の用途に係る医薬品の開発(A-4分を除く) | 品目数(=特定用途医薬品の指定数) |
※ 数値は改定前年の9月末時点までのものを用います。
企業要件を外れたときの効果
ロに当たらないためには、9つの確認事項にひとつでも該当があれば足り、国内で開発を続けている企業にとって高い条件ではありません。
ただし企業要件を外れると(国内開発から手を引いた場合など)、品目の側に変化がなくてもその改定で薬価維持期間が終わり、累積額が一括で控除されます (第3章第2節1のニ)。
薬価維持期間の終了
薬価維持期間は、これまでPMPの適用を受けたことのある既収載品が、 次のいずれかに初めて該当したときに終わります(第3章第2節1)。控除は一度きりです。
| # | 事由 | 補足 |
|---|---|---|
| イ | その品目に係る後発品が薬価収載された | 特許期間の実質的な終わり。もっとも典型的な終了事由 |
| ロ | 収載の日から15年を経過した | 後発品が出なくても終わる |
| ハ | 補正加算の対象とならない配合剤に相当する品目が、収載から15年経過した成分または後発品が収載された成分を含むこと | 対象品目の要件の3と同じ条件 |
| ニ | 製造販売業者が対象企業でなくなった(第9節2のイまたはロに該当する企業になった) | 企業要件が出口も決めている |
| ホ | 品目要件⑩で乗っている品目については、先行収載品がイ〜ニに該当したこと | 先行品と一体で扱われ、終わり方も先行品に従う |
累積額の控除
維持期間が終わる改定では、まず第1節の実勢価改定が通常どおり適用され、そのうえで累積額が控除されます(第3章第2節2)。
その間でPMPの適用を受けなかった改定(乖離率が平均を超えた年など)は除くので、据え置かれていない年の分を後で返すことはありません。
差し引いた額が0を下回る場合は0として扱います。
集計の終点が前回改定なのは、維持期間が終わる改定の差額まで含めると、その改定の第1節の引下げと二重に引くことになるためです。
据え置いた分が積み上がり、終了時に一括で返る
収載時1,000円、各改定で実勢価改定を適用すると改定前薬価の4%下がり、改定4で後発品が収載される品目の例(数値は説明用の仮設例)。改定4では第1節の960円から累積額120円を控除して840円になります。
- PMPを適用した場合(据置き)
- 維持がなかった場合
数値を表で見る
| 改定 | 改定前薬価 | 第1節で算定される額 | 差額 | 累積額 | 改定後薬価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 改定1 | 1,000 | 960 | 40 | 40 | 1,000 |
| 改定2 | 1,000 | 960 | 40 | 80 | 1,000 |
| 改定3 | 1,000 | 960 | 40 | 120 | 1,000 |
| 改定4 | 1,000 | 960 | — | 120を控除 | 840 |
控除後の840円は、維持がなかった場合の849円(1,000×0.96⁴)をわずかに下回ります。 累積額は毎回「据え置かれた高い薬価」を基準に計算されるため、乖離率が同じであれば、差額の合計は複利で下がった場合の下落幅より大きくなるからです。 PMPは最終的な薬価水準を高くするのではなく、特許期間中に受け取る額を前に寄せる仕組みです。
従来の加算からの引継ぎ
平成22・24・26・28・30年度、令和元・2・3・4・5・6年度の各基準(通知11本)の新薬創出・適応外薬解消等促進加算の加算額は、PMPの累積額に含めると定められています(第4章3(2))。
比較薬を通じた波及
据え置かれた高い薬価は、その品目を比較薬として算定された後続品にも移ります。 そのままでは維持の効果が制度の外へ広がるため、後続品の側でも累積額に相当する額を控除する規定があります(第3章第3節)。
対象は、収載された時点でPMPの適用対象外だった既収載品で、次のいずれかを比較薬として算定されたものです。
- PMPの適用を受けたことのある既収載品(すでに累積額の控除が行われたものを除く)
- この規定(第3節)の適用を受けた既収載品(すでに控除が行われたものを除く)
※ 類似薬効比較方式(Ⅱ)で算定された品目は、算定式ですでに控除後の額を用いているため、この規定の対象から除かれます(第1章21)。
※ その品目が現にPMPの対象であるとき、または当の改定でPMPの対象となるときは、控除されません。
※ 第3章第3節の規定は、令和2年度薬価改定以降に薬価収載されたものに適用されます。
累積額が差し引かれる場所と時期
1つの累積額が、6か所で差し引かれる
累積額が差し引かれる場所と時期を、効き方で2つに分け、根拠の規定を添えて並べたものです。
PMPで維持された分(累積額)
薬価そのものを下げる
- PMP品目そのもの薬価維持期間が終わる改定第3章第2節
- PMP品(またはその波及先)を比較薬として算定された品目収載から4年を経過した後の最初の改定第3章第3節
- 先発品と同一の後発品として算定された後発品比較薬が控除を受けるとき第3章第3節
計算に使う価格を置き換える
- 新規後発品の最類似薬後発品の収載時に、みなし価格へ第2章第2部1ヘ
- 類似薬効比較方式(Ⅱ)の比較薬新薬の収載時に、みなし価格へ第1章21
- 再算定の算式の「改定前薬価」控除を行った後の額を使う別表6ほか
表で見る
| 規定 | 対象 | タイミング |
|---|---|---|
| 第3章第2節 | PMPの適用を受けた品目そのもの | 薬価維持期間が終わる改定 |
| 第3章第3節 | PMP対象品(またはその波及先)を比較薬として算定された品目 | 収載から4年を経過した後の最初の改定 |
| 第3章第3節 | 先発品と同一の後発品として算定された既収載の後発品 | 比較薬が控除を受けるとき |
| 第2章第2部1のヘ | 新規後発品の最類似薬 | 後発品の収載時に、みなし価格へ置き換え |
| 第1章21 | 類似薬効比較方式(Ⅱ)の比較薬 | 新薬の収載時に、みなし価格へ置き換え |
| 別表6ほか | 再算定の算式で用いる「改定前薬価」 | 控除を行った後の額を用いる |
※ 新規後発品での計算例は、後発品:PMP累積額控除にあります。