Section 11

費用対効果評価

高額な医薬品・医療機器について、費用と効果のバランスを分析し、結果を価格に反映する仕組みです。 英国NICEなどと違い、保険で使えるかどうかは判断せず、収載したうえで価格だけを、 原則として収載時に付いた加算の部分に限って調整します。

何を測っているのか

制度の中心は ICER(増分費用効果比) という数字です。 比較対照技術に比べ、効果を1単位増やすのに追加でいくらかかるかを表し、 小さいほど費用対効果がよいことを示します。

ICER(増分費用効果比) ICER = 評価対象技術の費用 − 比較対照技術の費用評価対象技術の効果 − 比較対照技術の効果 分母の「効果」は QALY で測るので、単位は万円/QALYです。 制度上、算出できるのは費用も効果も比較対照技術より増える場合だけです。

QALY(質調整生存年)

延命と生活の質の改善を同じ物差しに載せるため、生存年数を生活の質で重み付けした指標です。 完全な健康での1年を1、死亡を0として数えるので、質0.5の状態で2年生きれば1QALYです。

比較対照技術

何と比べるかが結果を左右します。令和8年度改革で、 臨床的に幅広く用いられているもののうち治療効果がより高いものを1つ選ぶ考え方が明示されました。 一意に決めがたい場合は、相対的に安価なものを選ぶこともありうるとされています。

対象品目の指定(H1〜H5区分)

評価されるのは市場規模が大きいか、著しく単価が高い品目に限られ、 中医協総会が下表の基準で指定します。 H1〜H3は、有用性系加算の対象であるか、原価計算方式で開示度が50%未満であることが前提です。 H4の前提は、有用性系加算の対象であるか、営業利益率のプラスの補正の対象であることで、 H5にはこの前提は当てはまりません。

費用対効果評価の対象品目の区分
区分対象規模の基準
H1平成31年4月以降に保険適用された品目ピーク時予測売上高 100億円以上
H2同上(評価候補品目)。指定状況と売上高を勘案し、総会が適当と認めたものピーク時予測売上高 50億円以上 100億円未満
H3同上のうち、著しく保険償還価格が高いものなど金額の基準はなく、総会の判断
H4平成31年3月以前に保険適用された既収載品年間販売額 1,000億円以上(組成・投与形態が同じ類似薬の合計)、著しく単価が高いもの、または評価終了後に評価に重要な影響を与える知見が得られたとして総会が認めたもの
H5H1〜H4の品目(代表品目)を比較薬として算定された品目など

評価の対象から外れる品目

指定難病の治療のみに用いるもの、血友病の治療に係る血液凝固因子製剤等、抗HIV薬、 小児のみに用いる医薬品等は、上の区分に当てはまっても対象外です。 ただし年間販売額が350億円以上の品目や著しく単価が高い品目として総会が適当と認めた場合は、 各区分に準ずる区分で指定されます。

分析から価格調整まで

手続きは、企業の分析と、それを検証する公的分析の二段構えです。

指定から価格が動くまで 期間は目盛の下段に。目盛にふれるとその段になり、離れるとそこで止まります。目盛を押すと、その段を見られます。

指定中医協総会による対象品目の指定

ここから期間の計算が始まります。

3か月分析前協議 → 分析枠組みの決定

企業と国立保健医療科学院が分析対象集団・比較対照技術・分析に用いる臨床試験の方針を協議し、費用対効果評価専門組織が科学的妥当性を確認して決定します。

270日以内企業による分析データ等の提出

指定の日から原則270日以内(分析枠組みの決定までの約3か月を含む)に、分析枠組みに基づいて企業が分析し、分析方法・条件・ICERを含むデータを提出します。期限を過ぎれば理由を付す必要があり、その妥当性が検証されます。

90/180日公的分析(レビューと再分析)

国立保健医療科学院が指定した公的分析班(現在は立命館大学と慶應義塾大学)が企業の分析を検証し、妥当でないと判断すれば企業とは独立に再分析します。レビューのみなら受理から90日、再分析までなら180日以内。

専門組織費用対効果評価案の策定

分析対象集団ごとの比較対照技術・ICERの区分・患者割合と、価格調整における配慮の要否(総合的評価)をまとめます。

年4回中医協総会での決定と価格調整

総会が評価結果を決定し、薬価改定の際に限らず年4回、保険収載に合わせて価格が調整されます。

※ 分析枠組みの決定、分析データ等の審査、評価案の策定のいずれでも、企業は専門組織に出席して意見を述べられ、 通知された内容に不服があれば1回に限り不服意見書を提出できます。

これまでの運用実績

  • 令和7年9月1日までに指定された67品目の内訳は、H1が47品目、H2が8品目、H3が2品目、H5が10品目。ピーク時予測市場規模は中央値156億円/年
  • 同日までに評価が終了した49品目のうち価格調整が行われたのは38品目で、価格全体に対する調整額の割合は中央値 −4.29%
  • 追加的有用性が示されなかった18品目のうち、すべての分析対象集団で示されなかったものが6品目

動くのは価格の一部

係数を掛ける部分(価格調整対象)の切り出し方は、算定方式で変わります。

価格調整の対象範囲(別表12 の1)
算定方式価格調整の対象
類似薬効比較方式 有用性系加算部分。画期性加算・有用性加算(Ⅰ)(Ⅱ)の加算額が収載時の算定薬価に占める割合(加算部分割合)を、調整前の価格に掛けた額
原価計算方式
(開示度50%以上)
同じく有用性系加算部分(加算の対象となるものに限る)
原価計算方式
(開示度50%未満)
営業利益部分。調整前の価格に収載時の営業利益率を掛けた額

※ 経過措置として、開示度50%未満の品目のうち令和4年3月以前に収載され有用性系加算の対象でもあるものは、加算部分と、調整前の価格から加算部分を除いた額に収載時の営業利益率を掛けた額の両方、 平成30年3月以前に収載され営業利益率のプラス補正を受けた品目は補正割合に相当する部分が対象です。

価格調整の算式(別表12 の2(1)) 価格調整後の価格 = 価格調整前の価格 − 価格調整対象 ×(1 − β) β は価格調整係数(値は価格調整係数(β)の表)。 開示度50%未満の品目は、営業利益部分に θ(下限0.5で、βほど強くは効かない)が、経過措置で対象になる加算部分に γ(値はβと同じ)が掛かります。 → 価格調整の計算方法(別表12)
ICERの水準で、価格のどこがどれだけ動くのか 価格100のうち20が有用性系加算部分(収載時の加算率25%にあたる)という品目の例です。 つまみを動かすとβが変わり、下の帯が伸び縮みします。
総合的評価

ICERの区分500万円以上 750万円未満 価格調整係数 β0.7

価格調整前 100.0
価格調整後 94.0

100 − 20 ×(1 − 0.7)= 94.0。動いたのは加算部分の20だけで、基礎部分の80は長さが変わりません。

※ 別表2の加算係数を考えない単純化した例です。 → 引上げの上限・引下げの下限

H5区分の価格調整

H5区分の品目は自ら分析しません。 代表品目の価格調整前の価格に対する調整後の価格の比率を、自分の調整前の価格に掛けた額が調整後の価格です。

価格調整係数(β)

βはICERの区分で決まり、総合的評価で配慮が必要とされた品目では、200万円より上の区切りがそれぞれ1.5倍に緩められます。

ICERの区分と価格調整係数β(別表12 の2(1)②)
ICER(万円/QALY)総合的評価で
配慮が必要とされた品目
β方向
200万円未満(+ 引上げ要件をいずれも満たす)1.25引上げ
200万円未満(引上げ要件を満たさない)1.0据置き
200万円以上 500万円未満200万円以上 750万円未満1.0据置き
500万円以上 750万円未満750万円以上 1,125万円未満0.7引下げ
750万円以上 1,000万円未満1,125万円以上 1,500万円未満0.4引下げ
1,000万円以上1,500万円以上0.1大幅引下げ

ICERが算出できない場合

効果・費用の関係で決まるβ
比較対照技術との関係β方向
効果が増加または同等で、費用が削減される(+ 引上げ要件をいずれも満たす)1.5引上げ
同上(引上げ要件を満たさない)1.0据置き
効果が同等で、費用が増加する0.1大幅引下げ
効果も費用も同等1.0据置き

総合的評価で配慮が必要とされた品目

配慮の要否が評価されるのは、指定難病・小児・悪性腫瘍のいずれかを分析対象集団として分析した品目です。

3つの類型を条文どおりに見る
  • 適用症の一部に治療方法が十分に存在しない疾病(指定難病)が含まれ、当該疾病を分析対象集団として分析したもの
  • 小児に係る用法・用量等が承認された品目(小児のみに用いるものを除く)で、小児の適用症を分析対象集団として分析したもの
  • 承認された効能・効果において悪性腫瘍が対象となっており、当該悪性腫瘍を分析対象集団として分析したもの

引上げ(β=1.25・1.5)の要件

臨床試験で効果が示されていることと、臨床上有用な新規の作用機序を持つことの両方が要ります。 β=1.25では、さらに高いインパクトファクターの学術誌に論文が受理されていることが求められます。

要件の中身を見る
β=1.25 のとき
メタ解析・システマチックレビューを除く臨床研究に関する新規の論文が、 impact factor の5年平均が15.0を超える学術誌に原著論文として受理されていること (レビュー誌および創刊10年以内の学術誌を除く)。 あわせて、比較対照技術より効果が増加することが日本人を含む集団で統計学的に示されていること。 疾患領域の特性等でインパクトファクターの条件を満たしがたい場合は、査読を受けた英文の原著論文であれば専門組織の判断で代えられます。
β=1.5 のとき
効果が比較対照技術に対し増加または同等であることが、メタ解析・システマチックレビューを除く 臨床試験により示されていること。インパクトファクターの条件は課されません。
両方に共通
対象品目の薬理作用等が比較対照技術と異なり、臨床上有用な新規の作用機序を有すること。 令和8年度改革で、従来の「比較対照技術と著しく異なること」から改められました。

分析に協力しない場合

妥当な理由のない分析期間の超過、データが開示されないなど企業の協力が得られない場合、 企業が人員不足等を理由に分析不能を申し出て評価中止となった場合、 分析の中断のあと必要なデータが集まらず総会で評価中止が認められない場合は、上記の区分にかかわらず β=0.1 が適用されます。 販売停止などを理由に、企業と国立保健医療科学院が合意して申し出た評価中止では、価格調整を行わずに評価を終えます。

複数の分析対象集団があるとき

分析対象集団ごとにICERを算出し、それぞれのβで出した価格を 患者割合等で加重平均した額が価格調整後の価格です。 集団によって引上げと引下げが混ざることもあります。

引上げの上限と引下げの下限

加算部分が大きい品目で価格が動きすぎないよう、上下とも歯止めがあります。

引上げの上限

引上げ額は価格調整前の価格の5%(費用削減型のβ=1.5では10%)まで。 β=1.25では調整後の価格で計算したICERが200万円/QALY以下となる額、 β=1.5では調整後の費用削減額が調整前の半分を下回らない額、という条件も付きます。

引下げの下限

引下げは、収載時の有用性系加算の加算率に応じて価格の10%〜15%まで。 あわせて、調整後の価格で計算したICERが500万円/QALY(配慮が必要とされた品目は750万円/QALY) を下回らない額とされます。

引き下げられる幅は、加算率に応じて10%から15%まで

横は収載時の有用性系加算の加算率、縦は価格調整前の価格から引き下げられる幅の上限です。

0% 5% 10% 15% 0% 25% 50% 75% 100% 有用性系加算の加算率 → ↑ 引き下げられる幅の上限(価格調整前の価格から) 加算率70% → 13% 10% 15% 0% 5% 10% 15% 0% 25% 50% 75% 100% 有用性系加算の加算率 → ↑ 引き下げられる幅の上限(価格調整前の価格から) 加算率70% → 13% 10% 15%

○は下の表の例。

加算率ごとの下限を表で見る
引下げの下限(別表12 の2(3))
有用性系加算の加算率下限(価格調整前の価格からの引下率)
加算なし、または 25%以下10%
25%超 100%未満10 +(加算率 − 25)÷ 15 %(例:加算率70%なら13%)
100%以上15%

※ ここでいう加算率は、別表2の加算係数を乗じる前で、かつ別表2の2(2)の算式を適用する前の加算率です。

これから変わるところ

施行が保留されている見直し

令和8年度改革で最大のものとして、 追加的有用性が示されず、ICERの区分が「費用増加」となった分析対象集団について、 有用性系加算部分にβを掛ける現行の方法に代えて、 比較対照技術の1日薬価を評価対象技術の1日薬価で割った比を、調整前の価格に掛ける方法などへの見直しが示されました。 調整後の価格の下限は価格全体の85%を基本に引き続き議論するとされています。 ただし令和8年4月以降に評価結果が中医協に報告された品目は例外的に施行が保留され、 令和8年9月の検証報告の議論を終えて詳細を定めたうえで、改めて価格が調整されます。

※ 費用対効果評価でいう追加的有用性は、比較対照技術より健康アウトカムが改善することを指し、 薬価算定の有用性加算とは別の概念です。混同を避けるため、令和8年度改革で 「比較技術に対する健康アウトカム指標での改善」と言い換えることになりました。

大臣折衝・骨太の方針を受け、対象品目や価格調整範囲の拡大、診療ガイドラインへの反映などは、令和9年度の薬価改定の中で一定の結論を出すこととされています。 → 中医協と政府の動き→ 費用対効果評価の範囲をめぐる論点

出典:厚生労働省保険局長通知「薬価算定の基準について」(令和8年2月13日 保発0213第3号)第3章第12節・別表12、 「医薬品、医療機器及び再生医療等製品の費用対効果評価に関する取扱いについて」、 中医協 費用対効果評価専門部会 第76回(令和8年1月16日)資料。

本サイトの位置づけ

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