Section 07
実勢価改定
毎年の薬価引下げの本体です。国が実際の取引価格を調べ、公定価格である薬価をそこへ近づけます。
仕切価と納入価 — 取引価格は二段階で決まる
仕切価(しきりか)
メーカーが卸に販売する価格。薬価の一定割合で設定されることが多く、割戻し等を差し引く前の一次仕切価です。公表されません。
納入価
卸が医療機関・薬局に販売する価格。薬価調査が把握するのはこちらで、乖離率の計算に使われます。薬価との差が医療機関・薬局の薬価差益になります。
一次売差マイナス
納入価と仕切価の差(納入価 − 仕切価)が一次売差です。値引き競争で納入価が仕切価を下回ると、 その取引だけを見れば売るほど赤字になります。 卸は、メーカーからの割戻し(リベート)やアローアンスを差し引いた最終原価で粗利を確保していますが、 その分だけ価格交渉が不透明になり、単品ごとの価値に基づく取引を妨げるとして流通改善の課題とされています。
乖離率と改定の計算
薬価と実際の取引価格との開きが乖離率です。
実際の値で見る
改定前の薬価
100.0
納入価
95.2
改定後の薬価
97.2
乖離率から調整幅 2.0%を除いた分だけ、薬価が下がります。
※ 図では消費税を省いています。
※ 改定後の薬価は品目ごとに、その品目の乖離率から計算します。「実際の値で見る」の数字は品目をまとめた平均乖離率で、薬価×販売数量が大きい品目ほど強く効きます。いずれも薬価調査の年で、改定はその翌年度です。
平均乖離率は、令和7年の薬価調査では4.8%です(推移は過去の分析)。 乖離率は、中間年改定の対象や、PMP・不採算品再算定の適用可否など、 制度の分岐条件として使われる中心的な指標です。
市場実勢価格加重平均値調整幅方式の4段
乖離率から新しい薬価を決める次の4段の手順を、市場実勢価格加重平均値調整幅方式と呼びます。
-
1
納入価をならす
薬価調査の実勢価格を、数量で重み付けして平均
-
2
消費税を乗せる
税抜きの平均値に消費税を加算
-
3
調整幅を足す
改定前薬価の2%
-
4
上限で止める
改定前を超えない。乖離率2%未満なら据え置き
条文どおりの式で見る(別表5)
調整幅
調整幅は、流通コストや在庫評価損などを吸収し、流通を安定させるバッファです。 これがないと実勢価格ちょうどに薬価が張り付き、医療機関・薬局が薬を扱うだけで損失を被ります。 毎年改定が続くなかで「2%では足りない」という指摘がある一方、財政当局からは縮小を求める声もあり、改定のたびに議論になります(→ 現在の論点:調整幅)。
流通改善と価格交渉のカテゴリー
「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(流改ガイドライン)は、 単品単価契約(品目ごとに価格を決めること)を基本としています。 総価契約(まとめて何%引き)では、個々の薬の価値が価格に反映されないためです。
安定供給の観点から特に配慮すべき医薬品は、価格交渉の段階から別枠とし、 単品単価交渉とすることとされています。 令和8年3月4日の改訂(同日から適用)で別枠となったのは、基礎的医薬品・重要供給確保医薬品・不採算品再算定品(適用を受けてから2年を経過する日まで)・血液製剤・麻薬・覚醒剤及び覚醒剤原料です。 革新的新薬薬価維持制度の対象品と、不採算品再算定の適用から2年を経過した品目も、引き続き単品単価交渉とされています。
令和6年3月の改訂で別枠とされたのは、基礎的医薬品・安定確保医薬品(カテゴリーA)・不採算品再算定品・血液製剤・麻薬・覚醒剤及び覚醒剤原料です。 このうち主な3分野の令和7年度の乖離率は、順に1.6%・3.0%・1.6%です(令和5年度からの推移は過去の分析)。
出典:厚生労働省 令和7年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値
物流費と薬価
医薬品は温度管理・追跡・返品対応の要求が高く、物流コストが他業種より重くなります。 燃料費の高騰と、時間外労働の上限規制による輸送能力の制約(いわゆる2024年問題)が重なり、 配送頻度の見直しや共同配送が進められてきました。
ただし、物流費の上昇分を市場実勢価格に基づく改定に上乗せする仕組みはありません。調整幅も改定前薬価の2%で固定されています。 薬価に流通経費を積むのは原価計算方式で、新薬の算定のほか、既収載品でも不採算品再算定を受ける品目は、流通経費を含む原価計算方式で薬価を付け直します。 そのほかのコスト増は仕切価・納入価の交渉でしか価格に反映されず、乖離率の縮小にはその影響も含まれているとみられます。 令和7年度改定での最低薬価の引上げと不採算品再算定の臨時・特例の適用、令和8年度改定での物価動向を踏まえた最低薬価の概ね3.5%引上げが、この問題への数少ない直接の対応です。
改定の頻度
かつて薬価改定は2年に1度、診療報酬改定と同時に行われるものでした。 しかし平成30年度(2018年度)以降は、消費税改定を挟んだこともあり毎年度改定が続いています。 令和8年度改定で9年連続です。
本改定(診療報酬改定と同時)
偶数年度に実施。薬価制度そのものの見直し(薬価制度改革)もこの年に行われます。
中間年改定
その間の年度に実施。全品目ではなく乖離率が大きい品目に対象を絞ります。対象の範囲と適用するルールは議論になっています(→ 現在の論点:毎年改定)。
平成30年度から、毎年度改定が続いている
薬価改定の実施状況
- 2018平成30本改定抜本改革
- 2019令和元消費税対応10月
- 2020令和2本改定
- 2021令和3中間年改定乖離率5%超
- 2022令和4本改定
- 2023令和5中間年改定乖離率4.375%超
- 2024令和6本改定
- 2025令和7中間年改定品目の性格ごとに倍率を変える
- 2026令和8本改定現行の基準
本改定(診療報酬改定と同時)中間年改定消費税率の引上げに伴う改定
数値を表で見る
| 年度 | 施行 | 区分 |
|---|---|---|
| 平成 | 2018年4月 | 本改定(診療報酬改定と同時/薬価制度抜本改革) |
| 令和 | 2019年10月 | 消費税率引上げ(8%→10%)に伴う改定 |
| 令和 | 2020年4月 | 本改定 |
| 令和 | 2021年4月 | 初の中間年改定(平均乖離率8%の0.625倍=5%超が対象) |
| 令和 | 2022年4月 | 本改定 |
| 令和 | 2023年4月 | 中間年改定(7.0%の0.625倍=4.375%超が対象) |
| 令和 | 2024年4月 | 本改定 |
| 令和 | 2025年4月 | 中間年改定(5.2%を基準に品目の性格ごとに倍率を変えて設定) |
| 令和 | 2026年4月 | 本改定(現行の令和8年度薬価制度改革) |
中間年改定の対象は、令和3年度が平均乖離率8%の0.625倍(5%超)、令和5年度が7.0%の0.625倍(4.375%超)。令和7年度は5.2%を基準に、品目の性格ごとに倍率を変えて設定しました。令和元年度は、消費税率の引上げ(8%→10%)に伴う10月の改定です。
※ 中間年改定の方針は、平成28年の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」で毎年薬価調査・毎年改定として示されました。